だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「分かってるのに、なんで何も言えなくなるんだろうな」
笑った圭都の手に力が入る。
もどかしさが伝わってくるように。
雨の音は車の中にも響いていた。
ただ触れ合った箇所が少しずつ熱を帯びていた。
この空間が信じられない、と想う瞬間が何度もあった。
どうして今此処にいるのか、と。
ほんの数時間前まで、私は湊を想って泣いていたはずだった。
苦しくて、切なくて。
ただ、ここに湊がいないことを実感するばかりで。
救い上げてくれたこの人を、受け入れる余裕なんてなかったはずだった。
でも、今はこうして傍にいる。
この人のぬくもりが私の心を落ち着けていく。
人間は上手く出来ている、と想う。
どんなに苦しくても、助けてくれる人がいればそれで救われる。
どんなに忘れられない人がいても、傍で想ってくれている人に手を伸ばすことも出来る。
こんなに強欲で、こんなに我が儘。
それが『生きている』ということなんだ、と知った。
自分の頬にあるこの人の手にそっと自分の手を重ねる。
冷たい手は私から少し熱を受け取っていた。
「いつの間にこんなに好きになったのか、わかんねぇよ」
小さな言葉が落ちた。