だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「時雨、今何考えてる」
森川は私の頭に自分の顔を寄せるように聞いてきた。
寄せられた顔が、どんな顔をしているのか。
想像しそうになって、考えるのをやめた。
森川の表情を知ってしまったら。
今のままではいられない気がしたからだ。
何故だが、そんな風に想った。
「森川のこと、考えてる」
「何を?こんなことされてるから?」
そう言って、からかうように私を強く抱き締める。
こんなに優しく抱き締められて、胸が苦しくならない人がいるなら教えて欲しい。
この腕の中は、温かくて優しい。
初めて触れるけれど、知っている。
森川らしい優しさに溢れた腕だ、と想った。
「森川は、優しいな、って思って」
「優しい?」
「そう。優しい」
私が言うと、森川は頭を上に向けて『うーん』と考え込んでいた。
その仕草はとても森川らしいもので、私は少しだけ身体の力を抜いた。
「結局、自分の言いたいことではなくて、私が想ってることを聞こうとするんだね」
いつもの森川らしくない行動をとったかと思えば、いつも通り私を優先してくれる森川。
自分の気持ちを二の次に、私の気持ちを確認する森川。
結局、私がどう想うかを最優先してくれたという事実が、一番大切なのだと想った。
沈黙が二人を包む。
森川と一緒にいて、こんなにも居心地の悪い沈黙は初めてだった。
微動だにしないまま、二人の鼓動だけが響いていた。