だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
凛然...リンゼン
静まり返った資料室。
誰かが通る気配のない廊下。
此処が会社だと忘れてしまいそうなほど、現実離れした場所にいる気がしていた。
きっと森川の中に何かがあるのだろう。
でも、私はその何かがわからない。
それを見せてくれることは、もしかしたらないのかもしれない。
――――――『私はてっきり森川君もだと思ってたんだけど』――――――
さっきの水鳥さんの言葉が頭に響きそうになるたび、なんとかそれを押し込めていた。
そんなはずはない、と。
さっき迷いもなく告げたのは、自分自身なのだから。
ただ、この体勢からその言葉を否定するのは難しく、他の選択肢は浮かんでこなかった。
これを本人に聞く訳にはいかないのかもしれない。
けれど、いつも正直な森川には。
自分の口からちゃんと聞きたかった。
この同僚を大切にしているからこそ、面と向かって話をするべきだと思った。
「森川、聞きたいことが、あるの」
「・・・なんだ?」
「・・・私のこと、好きでいてくれたの?」
小さな保管庫の中で、不安を帯びた声が響く。
私が言った言葉に、森川は驚いたようにびくりと反応をした。
その反応を、どういう風に受け止めればいいのか。
顔が見えない同僚の気持ちを、今の私には確認する術がなかった。
ただ、いつまでもこの腕の中にいると安心してしまいそうな自分がいることも、否定出来なくなっていた。
熱すぎるほどのこの腕を、振り払うことが出来るのかな、と。
少しだけ不安になった。