だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「俺が好きだ、って言ったら。櫻井さんとの間で揺れてくれるのかよ」
圭都と森川の間で揺れる?
そんなこと。
今は、もうないだろう。
圭都が大切。
でも、森川も大切。
けれど、その大切の意味が違う気がする。
森川は、大切な人として。
そして圭都は、大切な『存在』として。
森川に支えられている部分は表に現れやすく、自分が揺らいでいるのが容易にわかる時だろう。
仕事も、恋愛も。
口に出して聞いてもらえば済むことを、森川はいつも受け止めてくれている。
けれど、圭都は違う。
私の奥底にある記憶を、そのまま支えてくれている。
どれだけ自分が傷付こうとも、私が大切にしているものをそのまま包み込んでくれる。
一人になる孤独とか。
いなくなる不安とか。
幸せになる覚悟とか。
私が前に踏み出すために必要なものを、圭都はいつも与えてくれる。
湊と一緒に生きていていいのだ、と。
言ってくれた初めての人だから。
両手をぐっと伸ばして、なんとか森川を引き離す。
離れたほんの数十センチの距離から、森川を見上げた。
一瞬驚いた顔をして、すぐに笑う。
その顔はとても柔らかく、優しく笑っていた。