だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
そっと森川の手が私に向かってくる。
目の前に近付く森川の手が、何か触れてはいけないものに手を伸ばしているようで、とても苦しくなる。
こんなにも戸惑っている手は、初めてだった。
ほんの少しの時間。
それなのに、時間の流れがとてもゆっくりだった。
ただ、森川の答えを待っていた。
「それでいい」
頭の上に温かい手のひらを感じて、森川が嬉しそうに笑う顔が見えた。
その顔を見て、私は心底安心していた。
「時雨が本当に櫻井さんが好きなのか、確かめたかっただけだ。流されてるんじゃないか、と思ってたからな」
「それで、あんなこと?」
「ダメか?」
全く。
もっと簡単に確かめる方法だってあっただろうに。
なんだか緊張していた自分がバカらしく思えた。
森川はたまに、とても回りくどいことをして私を呆れさせる。
そんなところが森川らしくて、私は笑えてきてしまった。
頭の上の手が、ぼすっと重みを増す。
ふざけるように頭を触るその手は、私が知っている森川の感触で。
それがとても、私を安心させた。