だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「ちょっと!重いっ!」
その手に抗議をしながらも、私は笑顔になってしまった。
それを見た森川は、また少し笑った。
「まだ、俺に言ってないことがあるだろう。遠慮するな。今更、何聞いたって驚いたりしない」
確かに、森川には全部を話していない。
整理がついていなくて、人に話せる状態ではなかったのも事実だ。
今私が隠していることは、森川を驚かせるには十分な内容に違いない。
そうとも知らず『簡単に話せ』という森川を、とても森川らしいと想った。
「自分で決めたことに、胸を張ってろ。迷ったらまた、話くらい聞いてやるさ」
おどけるようにそう言って、森川はそっと手を離した。
そして、すぐに踵を返して出口の方へと足を進めた。
その背中が、いつもよりも少しだけ小さく見えた。
「森川」
「ん?」
振り向いたその表情は、いつもの顔をしていた。
仕事をしに行く『営業の森川の顔』。
「森川。さっきの質問の答えだけ、教えて」
結局、答えを聞いていない質問。
いつも通りの顔に戻っていても。
それだけは聞いておかなくてはいけない気がした。
森川の声で答えを聞く必要があった。
はっきり、させるために。
――――――『森川、私のこと、好きでいてくれたの?』――――――