だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「簡単には、割り切れないもんだな」
その言葉は、とても頼りなく響いた。
少し震えるその声に、森川の気持ちが見えた。
その声が、背中が。
まだ好きでたまらない、と言っている。
苦しいほどの森川の気持ちが、この部屋の中に充満していく。
息苦しいほどの切なさが、森川の中に生きているのだと知る。
「そう」
他に言葉を落とすことが出来なくて、それだけ答えた。
何を言っても、森川の気持ちを埋めてあげるものにはならないのだ、とわかっていたから。
「後悔するような選択は、絶対にするなよ」
そう言って、保管庫の扉から出て行く背中を見送った。
森川の気持ちを救ってあげることは出来ないけれど、また一緒に飲みに行こう、と思った。
仕事も、お酒も。
プライベートで煮詰まった気持ちを、支えてくれる大切なものだと知っている。
今、目の前にある仕事について一緒に話をしよう。
沢山のお酒を飲みながら、これから始まるイベントの準備の話を。
それが、行き場のない気持ちを救ってくれるのだ、と。
私達は良く知っていた。
切なさが充満したこの部屋は、私が一人でいるには苦しすぎた。
そっと足を扉の方へ向ける。
頭を仕事に切り替えなくては、と思いながら。