だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
保管庫の扉を閉めて鍵をかける。
森川の残していった空気は、私の胸に残ったままだ。
夕方のこの切ない空気と溶け合って、消えてくれるのをゆっくり待つしかないな、と想った。
一つ小さく息を吐いてオフィスに向かう。
もう少ししたらチームのメンバーはみんな帰ってくるだろう。
少し遅くなってしまったので水鳥さんが心配しているかもしれないと思い、急ぎ足で歩き始めた。
「しぐれっ!」
懐かしい響きで呼ばれて、私はすぐに振り返る。
ひらがなの響きは、私の気持ちを少し軽くしてくれた。
「櫻井さん、お疲れ様です。戻ってたんですか?」
「あぁ、さっきな。丁度良かった、コーヒー淹れてくれるか?」
自分で作っても変わらないのに。
いつも私に頼みたがるこの人に、ちょっと呆れながら笑った。
どうでもいいような顔をして、私が纏っている空気の重さに気付いていたのかもしれない。
「誰が作っても同じですよ?インスタントなんだから」
「だったら、しぐれが作ってもいいだろう」
言いくるめられた感じはあるけれど、このままオフィスに戻っても仕事にならない気がしたので、仕方なく了承した。
給湯室まで二人で並んで歩いていた。
私を包んでいた重く切ない空気は、圭都のおかげで少し晴れてくれた気がした。