だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「はい、どうぞ」
給湯室でコーヒーを作って圭都に渡す。
小さく笑ってそれを受け取る姿を見て、少しほっとした。
森川と一緒にいた緊張感がやっと薄れてきた。
それでもまだ、森川のくれた熱が身体に残っているようだった。
「今日、久しぶりに早めに帰らないか?」
思いついたように圭都がそう言った。
この仕事の忙しい時期に早めに帰る、だなんて。
圭都の仕事が詰まっていくのが目に見えてわかった。
「私はいいけど、仕事詰まるんじゃないの?」
「それくらい、すぐに何とか出来るだろう。それより今日はのんびりしたいな」
圭都の集中力は尋常ではない。
なので、溜まった仕事もすぐに片付けられるだろう。
ただその後のことを考えると、身体が辛くなるのでは、と思った。
「時雨も、今日は疲れてそうだしな」
そう言って、一口コーヒーを啜る。
この人は本当に良く見ている。
森川とのことが私の胸の奥に残っているのを、見抜かれてしまいそうで少し怖かった。
そっと目線を向ける。
圭都が仕事では見せない顔で笑ってくれた。