だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
あの後、落ち着きを取り戻した私たちはゆっくりと車を走らせた。
言葉を交わすことは少なくて、どこかぎこちなさが残ったままだった。
ただフロントガラスに打ち付ける雨に、少しだけ雪が混ざり始めているのを見ていた。
「時雨、このまま家に来いよ」
強引な台詞と共に、車は一直線に圭都の家を目指していた。
運転手は圭都さんなのだから、私はそれに従うしかないというのに。
いつもの口調に少しだけほっとする。
言葉にしてくれることは、自分に言い聞かせることでもあるのだと想った。
自分が『今、こう想っている』とういうことを確認する儀式なのかもしれない。
傍にいたい、と想ってくれている。
大切なことほど言葉でくれる安心感。
この人の言葉はいつもどこか強がりで、あまり素直なものではないかもしれない。
けれど、その言葉の響きが私を非道く安心させた。
「いいですよ。圭都さんの行きたいところで」
口から出てきたのは、敬語と『さん』付けの言葉だった。
なぜ敬語なのか分からなかったけれど、今はこれでいいと想った。
ゆっくり変わっていければいいのだと、想った。
私の返事を聞いて嬉しそうに笑っていた。
その顔を向けてくれることが、とても嬉しかった。