だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「会社ではこの距離が精一杯だからな。なかなか話も聞いてやれないし」
圭都の目が、優しさを含んでいる。
私のことを心配している目。
そのことが私をとても安心させた。
圭都に、言ってもいいのだろうか。
でも私が圭都の立場だったら。
言われて気持ちのいいものではないだろうし、聞いたところでどうすることも出来ないことだ。
ただ、自分の中で消化出来る自身もなかった。
もう、どうしていいのか分からなかった。
「何かあったんだろう?言いづらければ言わなくてもいい。いつか言える時がくれば、その時でいい」
狭い給湯室では、隣に並ぶだけで手が触れそうな距離になる。
右手でマグカップを持ち、左手を私の右手に寄せる。
いつもより冷たくないけれど体温の低いその手に、自分の手を重ねた。
二人で温度を分け合って、そっと目を閉じる。
気持ちが落ち着くのがわかった。
「今日は、早く帰りたい。ちょっと、切り替えが必要かも」
「だろ?そうしようぜ」
圭都の大きな手に力が入る。
この手にいつも救われている。
いつか森川にも、こんな安心感が訪れますようにと静かに願った。
仕事だけではなくて。
森川を救うものが他にもあればいい、と思った。
森川が伸ばした手を、誰かが包んでくれればいいのにと、心の底から想っていた。