だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
二十歳の秋。
私は、逃げるように家を飛び出した。
あの家にいることが出来なくなって、お父さんに頼み込んで引越しをした。
実家から約二時間。
雪深い町から、自分が何もわからないような街へ。
大学は、一人暮らしのマンションから近いところへ編入した。
幸い、学力的には何の問題もなく、私は何もかもが新しい環境へと飛び込んでいった。
――――らしい。
実際は、ほとんど憶えていないのだ。
微かに残る記憶の断片を辿れば、確かに自分で全ての手続きと編入試験をこなしたのだけれど。
あの秋の記憶が、私にはほとんどない。
正確には『湊がいなくなってから三ヶ月間の記憶』が。
生活に支障が出ることはないけれど、想い出そうとすると苦しくなることはある。
仕方のないことだと、今では割り切っている。
今思えば、三年になってから畑違いの学校へ編入するなんて、とんでもない心臓だな、と思う。
怖気づくことは、一度もなかった。
湊のいない家で、湊を探し続けることの方が怖かった。
断片的に覚えている、冬のある日。
初めて迎えた冬はあまりに寒くて、今まで湊の体温に甘えてきたことを知った。
冷たい布団の中で隣にいない湊を想う度、心が凍っていくようだった。