だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
昨日の夜。
片付けをしながら、そんなことを考えていた。
初めて暮らした部屋は1Kの小さな部屋で、水色の絨毯に水色のカーテン。
青いチェックのベッドカバーに囲まれていた。
深い悲しみの色が、あの部屋には充満していた。
今でも鮮明に想い出せるその場所。
あの場所は、次に辿り着くために必要な場所だったのだ、と。
今ならわかる。
――――ピンポーン――――
オートロックのドアフォンから、人の影が見える。
時間はもう十時。
引越し業者の人が来る時間だ。
一度部屋の中を確認して、オートロックを解除する。
これから、この部屋の中は少しずつ空っぽになっていく。
今ある大きなベッドも。
一人暮らしとは思えない大きさの冷蔵庫も。
全て五セットずつ揃えた食器が入っている食器棚も。
濃いこげ茶の木目がしっかりした箪笥も。
此処から、いなくなってしまう。
この部屋に住んでいたのは、たった二年。
それでも、この二年は私にとって大きな変化のあった二年だった。
この部屋に住み始めてからは、忙しくなって中々部屋に入る時間が取れなかったけれど。
何故か安らぎをくれた部屋だったように思う。
休みの日に落ち着ける家は、私にとってかけがえのないものだった。
環境が変わることに慣れていったのは、いつからだっただろう。
流されるだけの毎日が、気が付けば自分が歩いてきた道になっていた。
何かに縋っても。
何かを失くしても。
そして、何かを諦めることも。
それが『生きてきた』ことなのだ、と想えるようになった。