だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
作業に戻ってお昼前には荷物が大方片付いた。
午後一時に新居へ運んでくれるということで、おばさん達は先に行ってしまった。
私は、というと。
空っぽになったこの部屋から、ベランダの外を見つめていた。
何をするわけでもなくぼんやりと見つめるこの景色は、もう少しで見納めだ。
新しい家への期待と今までの家との別離。
二つの相反する感情を上手く制御することが出来なくて、私はこの場所から動けずにいた。
圭都が待っているあの家に、今は足を向けることが出来ない気がして。
おばさんは『彼氏に会えるのが楽しみだわ』と鼻歌交じりで出て行った。
その言葉がなんだかとても嬉しくて、必ず自慢しますから、とおどけて言った。
私のその言葉に余裕の笑いを残していったので、なんだか余計に寂しい。
今までは気が付かなかったけれど、家の中の物たちは色んな音を立てていたのだと知った。
冷蔵庫の音。
テレビの音。
壁にかけられた時計の音。
音を響かせるものも、反射させるものも今はない。
残ったのは、わずかなダンボールと必要なくなった服のゴミ袋だけだ。
前を向けない想いは、それと一緒に此処に置いて行こうと決めた。
この優しくも、寂しい空間へ。
動き出した時間と共に、私は此処を出て行くことを決めたのだから。