だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
家の前で車が停まる音がした。
私はコートも着込んで準備万端だった。
すぐに玄関に向かってブーツに足を通す。
湊の体調をぼんやり考えながら、タクシーに乗り込んだ。
湊の体調がおかしいことは、まだお父さんにもママにも言っていない。
湊に口止めをされているから。
『最近忙しいから、ちょっと体力が落ちてるだけだよ。だから、母さん達には言わないでね』
湊のその言葉に『反論しても無駄』という口ぶりを感じて仕方なく頷いた。
それに、曲がりなりにも医者と看護婦。
家族の体調くらい自分達で気付いてくれるだろう、と高を括っていた。
ところが、二月はインフルエンザが流行する時期と言うこともあって病院は大忙しだった。
それに、寒くなると脳梗塞の患者さんが増える。
お父さんもママも急患ばかりで、家にはお風呂に入るためと着替えを取りに来るくらいだった。
湊はこのことが分かっていて私を口止めしたのだ、と気付いた。
気付いた時にはお父さん達は激務に追われていて。
直接会いに行かなければ、ゆっくり話も出来ないほど忙しくなってしまっていた。
こういうところが、湊は狡い。
『心配をかけない』ことと『遠慮』をすることは違う、と。
自分自身でわかっているはずなのに。