だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
少しの間見つめるその横顔は、湊をとても心配している顔だった。
きっと、いつも。
こうやってママは湊の傍にいたのだろう。
忙しい合間をぬって、わずかな時間でも母親に戻っていたのだろう。
そんなママを見ていると、湊との約束など破ってしまいたいと思った。
だって実際、湊は最近少し変だ。
何かを我慢している、そんな感じ。
そしてその我慢しているものは、何かとてつもないようなものに思えた。
冬の寒さのようにじわじわと迫り来る何か。
冬の寒さは、心を一人ぼっちにさせる。
寂しい気持ちが溶け出して、胸の中が深い青色で染まる。
冷たい色。
寒色。
昔の人は本当に的確な言葉を生み出したな、と思った。
ママが病室の扉に手を伸ばし、それと同時に自分のマスクを外した。
扉が開いた部屋は、消毒液の匂いとほんのり雨の匂いが漂っていた。
ほとんどの人は気が付かないこの雨の匂いを、敏感に感じるのは私と湊くらいのものだ。
想像していた通り、湊は苦しそうに眉間に皺を寄せていた。
額をじっとりと濡らし眉をひそめ、苦しそうに息を吐いている。
熱、と言うよりは何か違うものにうなされているようだ。
ベッドの脇にある円盤が乗ったような小さな椅子に座る。
ママは私の横に立って、ガーゼで湊の汗を拭いていた。
私は、点滴のされていない湊の右手を自分の両手で包んでいた。