だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「じゃあ、私は戻らなきゃいけないから。時雨ちゃん、湊をお願いね」
そう言ったママの顔は、もう仕事の顔に戻っていた。
小柄なママの身体の何処にこんなパワフルさを秘めているのだろう。
いつも笑顔のママは、とても強くて綺麗。
湊の汗を拭いたガーゼをポケットに入れて、そっと湊の頭を撫でる。
その手つきが、やっぱり母親の優しさで溢れていた。
私はこれ以上ママに隠していることが出来なくなって、そっとママを見上げた。
湊の頭を撫でながら視線を感じたママは、そっと私の方を向いた。
不思議そうに私を見て笑った。
「なぁに、時雨ちゃん?私に何かついてた?」
小さい頃、風邪をひいた時にいつも話しかけてくれた声。
私の記憶の中のママはいつまでもこの白いナース服なんだろうな、と思った。
家にいる時よりも、こっちの方がしっくりくる。
ナース服の上から着ている紺色のカーデガンを掴んで、ママを引き止める。
余計に心配をかけるだけかもしれないけれど、何かあるなら今すぐに知りたかった。
ぐっと目を見つめて、椅子からママを見上げた。
「あのね、ママ。聞いて欲しいことが――――」