だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「――――時雨」
ふと湊の手が、私の左手に力を込めた。
私の右手はママの服を掴んでいて。
逆の左手は湊の手を掴んだままだった。
湊の手を握っていたことを私はすっかり忘れていた。
湊の体温に慣れすぎて、最近は温度の境目さえ見失いそうだった。
「湊、目が覚めたの?」
ママが小さく声をかけると、眠そうに細く目を開けた。
虚ろな表情で目も潤んでいる。
かなり辛そうな湊に向き直って、もう一度両手で手を握った。
「母さん、悪いね。点滴終わったら、時雨と一緒に帰るよ」
「そうして頂戴。ここにいる方がきっと悪化するわ。何かあれば、薬持って帰ってあげるから」
安心したように笑ったママは、今度こそ病室から出て行った。
軽く上げた右手はさっきよりも安心した空気を纏っていた。
病室の扉が閉まると湊が大きく息を吐いた。
辛そうな吐息に切なくなって、そっと頬を撫でる。
少しでも辛さを吸い取ってあげることが出来ればいい、と思って。
湊の頬に寄せた私の手に、湊が自分の手を寄せてきた。
けれど、重ねられなかった湊の手は私の手首をしっかりと握っていた。