だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「なくならなくても、楽にはなるわ」
ママはゆっくり立ち上がってそう言った。
私達の繋いでいるその手を見つめて、そっと微笑んだ。
「どんなに辛い時でも。傍にいて欲しい人が隣にいて、その人が笑ってくれたら心が軽くなるわ。自分を心底心配してくれる人がいるだけで、病気と闘える人を沢山見てきたわ」
看護師。
生と死の狭間のわずかな時間。
その時間でさえも、立ち会うことを仕事とする。
命を助けることが出来る仕事。
それと同時に、命を看取る仕事。
その仕事はとても尊く、そし非道く残酷なものなのだろう。
「貴方のことが大切だから、心配するの。そして、貴方のことを愛しているから、いつでも傍にいてくれるのよ。それがあるから、人はいつも病気に立ち向かっていけるのよ」
大切だから、心配する。
愛しているから、傍にいる。
まるで自分に言い聞かせるようにママは言った。
ママの言葉はとても重みを持って、私達の胸の奥底に届いた。
「だから少しでも元気でいられるように、湊も努力をすべきだわ」
ママの顔からは笑顔が消えていた。
真剣な眼差しが、湊を見据えていた。