だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「なるべくうつさないように気をつけるから、少しだけ。一緒に横になろう」
私は、うつしてくれたって構わないのに、と想う。
それで湊の辛さが少しでも無くなるのなら。
私は喜んで、その風邪だって引き取るのに。
「身体、辛くない?起きてて大丈夫?」
「時雨がいたほうが、眠れる気がする」
そんなことを言われたら。
何をしてでも傍にいてあげよう、と想う。
いいよ、と小さく言って湊の布団の中へ潜り込む。
熱いほどの布団の中で、氷枕がその熱を冷ましてくれていた。
「夕日の明かりはね。人を惑わす明かりだと言われているんだ」
半分くらい意識が夢の中にあるのでは、と思うくらいぼんやりとした口調の湊が言った。
人を惑わせる明かり。
今の湊の声も私を惑わせるのに十分だ、と考えていた。
「夕暮れ時は昼と夜の境目でね。古来、日本では現世(うつしよ)という現在と、常世(とこよ)という死後の世界があると考えられていた」
「昔話みたいね」
「あぁ。その世界と繋がる時間が、こういう赤と紺の混ざる時間だと言われていたんだ。常世の住人が、現世の人を惑わす時間。」
「常世の住人・・・」