だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「いや、まだ言ってなかったなと思って。我が家へ、ようこそって」
『我が家』へ。
そうか。
圭都の家に一緒に住むということ。
それを実感させてくれる一言だと想った。
なんだか恥ずかしくなり、お湯を確認するフリをして目線を外す。
顔が熱くなるのがわかった。
「なんか、恥ずかしいね。でも、お邪魔します」
丁度良くお湯が沸いたので、そのお湯をティーポットに注ぐ。
香りが立つのを確認してティーコージーをかけて置いておく。
その間にコーヒーをドリップした。
途端に広がるコーヒーの匂いが、キッチンに充満していった。
「もう、『お邪魔します』なんて言えなくなるぞ。これからは、ここがお前の家なんだから」
圭都がその香りの先に目を向けて、力強くそう言った。
その言葉には、真っ直ぐな意志を含んでいる気がした。
立ち上るコーヒーの香りが私と圭都の間に溢れていた。
ゆっくりと言葉を噛み締める。
ここが、私の家になる。
圭都と暮らす場所になる。
それはきっと。
温かくて柔らかいけれど、ぎこちなくて覚束無い。
それでいて、脆くて壊れやすい。
そんな、大切なものになるだろう。