だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
二人分のカップを用意してリビングへ運ぶ。
ソファーに腰掛けて二人でカップに口をつけた。
静かな空間の中で、何も言わずに二人で並んでいる。
テレビもつけず何の音楽も流れない空間で、二人だけの空気を噛み締めていた。
――――――ピンポーン――――――
部屋のインターフォンが響いて、二人で顔を見合わせた。
何かを言うわけでもなく自然な流れで立ち上がる。
オートロックのインターフォンには、さっきまで仲良く話をしていたおばさんがにこにこと立っていた。
鍵を開け、リビングの圭都を振り返る。
嬉しそうな顔をして私を見ている圭都は、とてもリラックスした表情をしていた。
「さっきまで一緒に作業をしていた女の人がね、彼氏に会うのが楽しみだ、って言ってた」
「お前、そんなことまで話したの?」
「ダメだった?」
少し不安になって圭都に問いかける。
圭都は笑いを堪えながら、ソファーに近付く私の様子を見つめていた。
そっと手を伸ばして私の右手を掴む。
コーヒーカップの熱が移って、少し温度の上がった圭都の手が私に触れる。
「いや、時雨らしい」
満足そうに笑う圭都。
――――ここから始められる――――
そんな確信めいた想いが、私の中に込み上げていた。