だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
私の手を追い越して、圭都は棚にあるタオルを一枚手に取った。
柔らかそうな真っ白なタオル。
タオルの端にはピンク色のステッチがしてあり、色違いのものがもう一枚、棚に並んでいた。
新しそうな、それでいて懐かしい手触りがしそう。
温かい湯気が出る洗面台で、そのタオルは丁寧に濡らされて。
気付くと圭都は私を自分の方へ向かせ、その温かいタオルで顔を拭いてくれた。
化粧をしていないことがこんなところで役に立つなんて。
誰も考え付かないのだろうけれど。
私の顔をいとしそうに拭く圭都に、段々恥ずかしくなっていったのは私のほうだった。
俯く私の顔をぐっと持ち上げられる。
髪もぼさぼさ、ほこりで顔も汚れてる。
なんだか、無性にいたたまれなかった。
「圭都・・・っ!なんか恥ずかしい・・・」
抗議の声は、圭都の嬉しそうな顔に吸い込まれていってしまった。
目の前の人物は間違いなく私を大切に想ってくれている。
湊と同じ目で、湊と二人分の愛情を、これから注いでくれるだろう。
時間はもうすぐ十七時。
夕暮れの色が、リビングの床に反射して圭都を照らしていた。
今日は、とても切ない色をした夕暮れだった。
赤と紺が混ざる時。
そんな時間が静かに近づいているのを感じていた。