だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版





「時雨?」




そっと近付いて手を伸ばした圭都は、私をぎゅっと抱き締めた。

込められたその力がなんだかとても切なくて、私は必死にその背中にしがみついた。


ふと、圭都の肩が冷たいことに気が付いた。

どうして冷たいのかと、まじまじとそこを見る。


そこには、濡れたような染みが出来ていた。




「なんで、泣いてる?」




そっと私の頭を撫でながら、ソファーの前に跪いて私を抱き締めたまま圭都は言った。

その言葉に自分が泣いていたのだということを、理解した。





「わからない」




本当にわからなかった。

名前を呼んだからなのか、それとも、この苦しい夕日の色のせいなのか。

その色が、湊を想い出させたからなのか。


ただ流れ落ちるだけで嗚咽が漏れるわけではない。

それでも、溢れ続ける涙は止まることはなかった。


どうすることも出来なかった。


目の前のぬくもりに縋る以外に、どうしてやり過ごせばいいのかわからなかった。



部屋の中に静かに流れる音が、私達を包んでいた。

遠くで静かな声がする。



その声は『どんなに季節が巡っても貴方を愛してる』と言っていた。




< 224 / 358 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop