だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「時雨?」
そっと近付いて手を伸ばした圭都は、私をぎゅっと抱き締めた。
込められたその力がなんだかとても切なくて、私は必死にその背中にしがみついた。
ふと、圭都の肩が冷たいことに気が付いた。
どうして冷たいのかと、まじまじとそこを見る。
そこには、濡れたような染みが出来ていた。
「なんで、泣いてる?」
そっと私の頭を撫でながら、ソファーの前に跪いて私を抱き締めたまま圭都は言った。
その言葉に自分が泣いていたのだということを、理解した。
「わからない」
本当にわからなかった。
名前を呼んだからなのか、それとも、この苦しい夕日の色のせいなのか。
その色が、湊を想い出させたからなのか。
ただ流れ落ちるだけで嗚咽が漏れるわけではない。
それでも、溢れ続ける涙は止まることはなかった。
どうすることも出来なかった。
目の前のぬくもりに縋る以外に、どうしてやり過ごせばいいのかわからなかった。
部屋の中に静かに流れる音が、私達を包んでいた。
遠くで静かな声がする。
その声は『どんなに季節が巡っても貴方を愛してる』と言っていた。