だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「落ち着いたか?」
低く響く優しい声に、私はそっと顔を向けた。
心配そうに私を覗き込む圭都を見上げて、なんだかとても安心した。
手を伸ばして頬に触れる。
きっとこの夕日が、私の心を惑わせてしまったんだと想いながら。
「ごめんね、突然」
「いいよ。気にするな」
圭都に触れた私の右手は、そっと掴まれて圭都の口元に運ばれた。
優しく唇を寄せるその気障な仕草も、今は見惚れるくらい素敵だと想った。
私はそっと、首を横に振った。
『疲れたのではない』という事を伝えたかったのだけれど、圭都にわかってもらうことは出来なかった。
「イヤか?俺がこうして触れること」
そんなことに首を振ったわけではない。
けれど上手く言葉にならなくて、私は魚のように口を開いたり閉じたりしていた。
私が言葉に出来ないでいるのを感じ取ったのか、圭都は目だけで『何?』と訊いてくる。
その目線は、なんだか不安そうに揺れていた。
圭都を不安にさせるのは得意なのに、安心させてあげることはとても不得意だ。
もっと大切にしたい、と想った。