だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「そっかぁ」
ぽつりとこぼれた言葉と私の笑いに、圭都が怪訝な顔をしてこちらを見ている。
結婚。
そうか。
私は湊との結婚なんて、考えたことはなかった。
だって、そんなことしなくても湊は隣にいてくれたし、そんな必要はなかった。
いつだって傍にいた。
家に帰れば其処に湊がいる。
それが当然のことだったから。
だけど突然いなくなった。
当たり前が当たり前ではなくなった瞬間に、私は家にいるのが怖くなった。
見慣れた場所。
嗅ぎ慣れた匂い。
触れる全ての感触。
何処を探そうとも、『もう湊はいない』のだと思い知らされた。
その感覚は、一人暮らしの部屋も同じだった。
自分だけの場所で、自分だけの空間で。
私の居場所であるはずなのに、どこか他人行儀で無機質。
大好きな色に統一された、落ち着ける空間のはずなのに。
そこには優しさがなかった。
私を包んでくれる温かさがなかった。
私を向かえてくれる笑顔がなかった。
『それ』を、湊はくれていたんだ。
そして、圭都も『それ』をくれようとしているんだ。
だから圭都が目の前にいるだけで涙が出た。
そこに欲しいものが全て詰まっていたから。
私は、『それ』が欲しかった。