だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版





「そっかぁ」




ぽつりとこぼれた言葉と私の笑いに、圭都が怪訝な顔をしてこちらを見ている。



結婚。

そうか。



私は湊との結婚なんて、考えたことはなかった。

だって、そんなことしなくても湊は隣にいてくれたし、そんな必要はなかった。



いつだって傍にいた。

家に帰れば其処に湊がいる。

それが当然のことだったから。



だけど突然いなくなった。

当たり前が当たり前ではなくなった瞬間に、私は家にいるのが怖くなった。



見慣れた場所。

嗅ぎ慣れた匂い。

触れる全ての感触。



何処を探そうとも、『もう湊はいない』のだと思い知らされた。



その感覚は、一人暮らしの部屋も同じだった。


自分だけの場所で、自分だけの空間で。

私の居場所であるはずなのに、どこか他人行儀で無機質。

大好きな色に統一された、落ち着ける空間のはずなのに。


そこには優しさがなかった。

私を包んでくれる温かさがなかった。

私を向かえてくれる笑顔がなかった。




『それ』を、湊はくれていたんだ。

そして、圭都も『それ』をくれようとしているんだ。



だから圭都が目の前にいるだけで涙が出た。

そこに欲しいものが全て詰まっていたから。




私は、『それ』が欲しかった。




< 230 / 358 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop