だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「しぐ――――――」
「聴いて」
口を開きかけた圭都に、私は強い口調で言った。
圭都はそのまま私を見つめていた。
「結婚とか、そんなこと考えたことはないの」
圭都はあからさまに驚いた顔をした。
そして、少し悲しみの色を目に浮かべていた。
「でも、傍にいて欲しい。例えば今みたいに。何かをすぐ伝えられる距離にいたい。何をするわけでもなく、見つめられる距離にいたい・・・ずっと」
圭都は、私の言いたいことがわかったようだった。
そして握り締めていた私の手を、自分達の目線まで持ち上げた。
目の前には、冷たくて大きな圭都の手。
体温を分け合うことが気持ちのいい温度。
「それを『結婚』と呼ぶのなら。そんなに嬉しいことはないよ」
そう、言った。
「ずっと一緒にいよう」
圭都が信じられないという表情をした後、とろけるように優しい顔をしてくれた。
初めて見るその顔に、心の奥が温かくなっていくのがわかった。
その言葉を告げた後、私の左手の薬指にキスをした。
これはもうプロポーズ以外の何でもないけれど、私達にとっては違った。
結婚という『カタチ』ではなく、一緒にいようという約束。
圭都がくれた言葉通り『ずっと一緒にいる』ということが、私には何より大切だった。
私はにっこりと笑って圭都のおでこにキスをした。
湊がいつもくれていた、優しいキスを想い出しながら。