だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「何・・・これ?」
私が今、手に持っているもの。
金色の綺麗な細工が施された華奢な鍵。
自分の部屋で見つけたコレは、どこの鍵だったのか。
思い出そうと頭をフル回転にしている。
見覚えがある。
とても懐かしいもの。
とても大切なもの、そんな気がする。
記憶の断片が少しずつ甦る。
奥底にしまっていた記憶。
湊がいなくなってからの三か月間。
私にはその期間の記憶がほとんどない。
断片的に憶えているのは、慌しく引越しの準備をして家を飛び出したことや、誰一人として湊の部屋に足を入れさせなかったことなど。
ふとした時に突然、まるで発作のように想い出すことがあるくらいなのだ。
湊がいない現実を受け止めようと必死だった、あの時。
ここから離れる決意をした気持ちだけは、鮮明に憶えている。
やっと戻ってきた。
そんな私の手には、この華奢な鍵。
もしかしてあの箱の鍵?
湊と私で秘密を詰め込んだ、あの鍵?
でも今の私では、あの箱をどこに置いたのかさえ想い出せない。
部屋中をひっくり返して、隅々まで探すことしか手段がないのかもしれない。
「・・・圭都、手伝ってくれる?」
遠慮がちに言った私の言葉に『もちろん』と、嬉しそうに笑ってくれたことがとても有り難かった。