だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
湊がいなくなってから、しばらくの間。
私は『死』という言葉を使うことが出来なくなった。
『悲しい』とか『辛い』とか。
そんな簡単な感情は、浮かび上がる気配もなかった。
『大変だったわね』
『可哀相に』
『辛いでしょう?』
『無理しなくていいのよ?』
そんな言葉を周りの大人達はかけてくれた。
とても優しい顔で。
心から私のことを考えてくれているその目は、私を非道く苛立たせた。
わからなかったから。
言葉は理解していても、自分の気持ちと同調することはなかった。
だって、悲しくなかった。
辛くなかった。
無理して元気にしていたわけじゃない。
泣くのを我慢したわけでもない。
ただ、寂しかった。
それ以外の感情は、あの時の私には無かったんだと思う。
いつも隣にいてくれた温かさが、突然なくなっただけ。
一緒に寝ていたベッドがあまりに広く、冷たくなっただけ。
右手が空っぽなだけ。
でも、それも現実味がないものだった。
いつか戻ってくる気がして。
ほんの数日前まで笑ってキスをしていたの。
家に帰りたいと駄々をこねて、一緒に寝ていたの。
珍しく素直になって、私に気持ちを伝えてくれていたのに。