だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
この人はどうしてこんなに素直でいられるのだろう、と想った。
私は恥ずかしさや申し訳なさで、想ったことをそのまま伝えるのが得意ではない。
いつも想ったことと反対のことしか伝えられない。
だからこそ、先回りをしてくれるこの人をとても有り難いと想った。
「やっぱり、今日は私が作りますよ。好きなもの言ってください」
そう言うと、圭都はとても嬉しそうに笑った。
社内にいるので平静を装ってはいるが、その顔はすでに仕事の顔ではなくなっていた。
「そうだな・・・、じゃあシチューがいいな。温かいものが欲しくなる季節だろ?多少時間がかかってもかまわないから」
「わかりました」
小さな声で笑い合ってオフィスを後にする。
こんな風に穏やかに毎日が過ぎていくことに、小さな幸せを感じていた。
社内恋愛を隠しているわけではないが、気付かれない限りは言う必要はないと思っている。
圭都と付き合うということは、社内の女性社員から数多くの嫉妬の視線を向けられるということだ。
それだけ、この人が魅力的だという証明なので嬉しいことではあるのだけれど。
社内にいる上で息苦しくなるのは目に見えているので、圭都が気にしてくれているのだ。