だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
現実...ゲンジツ
「そろそろ着くぞ」
声をかけられて少し驚く。
自分の意識が、そう遠くない過去に逆戻りした感覚だった。
苦く悲しい記憶。
今でも鮮明に想い出せる。
だって『まだ』八年。
心配そうに私の顔を覗きながら、圭都は私にそっと声をかけた。
運転中に危ない、と言いかけて信号で停まっていることに気が付いた。
目の前の信号に気が付かない程、考え込んでいたことに申し訳なさを感じる。
「大丈夫か?」
圭都の目線が少しだけ苦しそうだったので、にっこりと笑って見せた。
私のその顔を見て、圭都は安心したように前を向き直した。
圭都は切なそうな目や苦しそうな目をする。
でもその目は、少し前のように不安に揺れることはないような気がする。
私のことを信用している、と。
そう想ってくれているようだった。
「道順、自信ないから教えろよ」
「わかった。っていうか、よく此処まで来れたね」
「記憶力はいい方だからな」
それだけで此処まで来れることの方が驚きだった。
きっと圭都は、私の実家を知っている。
家に遊びに来たことはないけれど、一度だけ家の前まで来たことがあると言っていたのを思いだした。