だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
そこには、湊の写真が飾ってあった。
初めて四人で撮った写真。
入学式や卒業式の写真。
私と二人で写っている写真。
カメラに写ることの少なかった湊の、貴重な写真達。
家族の顔をした湊の写真ばかり並ぶ中で、一枚の写真だけは違った。
「時雨?どうかしたのか?」
棚の前で固まっている私の横に、いつの間にか圭都が立っていた。
私は、動揺を隠すこともせず圭都の声に応えた。
「この写真、遺影に使ったの」
指差した湊の顔はとても柔らかく微笑んでいた。
めったに見せることのない、湊の心を許している顔。
「湊がこんな顔するなんて・・・珍しいな」
「圭都、見たことある?この顔」
「あぁ。めったにこんな顔しないけどな」
この顔を知っているだけで十分だと思う。
だって本当に大切な人の前でしか、湊はこんな顔をしないから。
圭都は感心したように、じっとその写真を見つめていた。
「この写真は、湊の遺影の写真なの」
圭都はゆっくりと私に視線を向けた。
その目線に笑って応える。
私の気持ちが動揺していることに、この人が気付かないわけがない。
それでも、にっこりと笑った。
はぐらかした訳ではない。
伝える言葉を選ぶための時間が必要で、何も言わないままキッチンへと足を向けた。