だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「圭都、コーヒーでいい?」
「あぁ、ありがと」
圭都は答えながら、自分の着ていたコートをソファーの端にかけた。
そして、そのままさっきの棚にもう一度足を向けた。
キッチンには電気ポットがあった。
コーヒーや紅茶をよく飲む二人には欠かせないものなんだな、と微笑ましく思う。
それに水を入れてスイッチを入れた。
「その湊の写真、あるでしょう?それは、湊がいなくなる前日に撮ったの」
「前日?」
「そう、前日」
圭都は少し怪訝な顔をして、カウンターキッチンのすぐ近くまで歩いてきた。
何を言うでもなく、コーヒーと紅茶を用意する私の手元ばかり見つめていた。
「入院してただろ、湊。病院で死んだんじゃなかったのか?」
圭都の口から出る、湊の『死』という言葉。
まだ私の胸を傷つけるには十分過ぎるほどの力を持っていた。
「最後は、病院だった。でも前の日の夜、湊は帰って来たの」
「そんな簡単に帰って来れたのか?」
「普通は無理だよ。でも湊は、それを簡単にやってのけるの。頑固さを隠して、上手く自分の意見を通すんだから」
湊は自分の意見を曲げることはほとんどない。
だから、大変なことで簡単にやってのけてしまう。
こちらの心配なんてお構いなしで。
自分の思い通りにしてしまうんだから。
子供のように我儘で、大人らしく狡い人だった。