だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
追憶...ツイオク
「時雨。僕、帰りたいな」
「はい?」
湊はいつもの口調で私に言った。
この人は今『帰りたい』と言った。
自分の病状をわかっているのだろうか。
確かに安定するのは早いけれど、いつ進行するのかわからない。
そんな状況で、どうして家に帰ることが出来るのだろうか。
ついこの間意識不明になったばかりなのに。
こんなにもケロリとしている湊は、いつもの湊に違いない。
けれど外出許可など取れるはずもなかった。
「湊。自分がどういう状況か、ちゃんとわかって言ってる?」
「わかってるよ。検査の結果だって、ちゃんと聞いたんだから。何より、父さんがそう言ってるんだ。間違いないことくらいわかってる」
言葉の真意を確かめるには、湊が今の状況をわかっているかを確かめる必要があった。
湊は人並み以上に頭がいいので、自分の状況判断くらいすぐに出来るだろう。
それならどうして、あんなことを言い出したのか。
湊の思考回路を理解するのは、私には絶対に無理だと思った。
「湊、今の状況で帰るのは無理だよ」
個室のテーブルの上に授業の課題を広げながら私は言った。
最近は学校に行くことが少なくなっているので、その分課題提出が課せられていた。