だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
二人で向かい合って座る。
静かな沈黙が、どんどん息苦しさを連れてくる。
お父さんは私を見たまま何も言わない。
私はその空間の中で、お父さんを見つめることが出来ずにいた。
「聞きたいことがある時は、しっかり相手の目を見て聞きなさい」
お父さんの声が響いた。
わかってるよ。
それは、小さい頃からお父さんに言われ続けたこと。
相手の目を見ることは相手の本質を見ることだ、と教えてくれた。
相手と向き合うことだ、と。
でも、私は怖かった。
お父さんの表情に諦めが浮かんでいたら?
感情をすぐ顔に出してしまうお父さんが、絶望の眼差しをしていたら?
私は、湊の今後をすぐに予想することが出来るだろう。
少しの間、私とお父さんの間の空気は微動だにしなかった。
張り詰めたまま、どちらも何も喋らなかった。
時折聴こえるお父さんが座りなおす音と、自分の呼吸の落ち着かない音ばかりが響いた。
私の座っているくるくる回る椅子が、小さな頃から私のお気に入りだった。
ここに座るとお父さんの近くにいられる気がして、私はいつもこの丸椅子を探していた。
そんなことを思い出していた。