だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「時雨」
厳しくて、冷たい。
それでいて、私を優しく諭すような声が聴こえる。
この声に逆らうことは一生ないだろう、と想った。
諦めてそっと目線を上げる。
お父さんはにっこりと笑っていた。
その顔は絶望の色などどこにもなく、落ち着いた空気が満ちていた。
「湊の外泊を許可したのは、今のところ何の問題もないからだ。確かに退院するには早いけど、外泊くらいは問題ない、と判断したからだ。言っていることが、わかるね?」
お父さんの言葉に、嘘はないと知っていた。
湊が倒れてから二週間が経った。
今の段階で悪化がないのであれば、意識がなかったのは本当に体調の悪化に極度の頭痛が干渉したためだったのだろう。
「・・・本当にっ、大丈夫・・・なのね?」
お父さんのことは信じている。
ただ、私の心のどこかが怖いと言っている。
不安に揺れた瞳を惜しげもなく揺らして、私はお父さんに問いかけた。
必死で気持ちを保っていた私は、震える声を何とか抑えることに必死だった。
お父さんの手が伸びてくる。
温かくて大きな手が、私の頭をぽんぽんと撫でる。
『大丈夫』という言葉の代わりに。