だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「ごめん、そんなに不安にさせてたなんて。そんな風に想ってるなんて、想いもしなくて」
湊は私を抱き締める力を緩めたりしない。
その腕の強さに、私は泣くことさえ出来ずにいた。
「大丈夫。此処にいる」
静かな声が私の気持ちを落ち着ける。
今は、湊の鼓動の方がずっと早く脈打っていた。
「そうだな・・・。じゃあ『もしも』がいつか訪れたら、俺は雨になりたい」
「雨?」
「そう、雨に」
湊はやっと顔を上げた。
その顔はとても優しくて、目が合うと私は涙が溢れてきた。
ぽろぽろ、と。
とめどなく。
「時雨と俺が大好きな雨に。時雨が泣いても隠せるように、静かに降るよ。全ての音を消して、雨だけの世界にしてあげる」
「雨だけの、世界?」
「そう。俺と、時雨だけの世界。寂しい気持ちにならないように、そっと降り続けてあげる」
湊は私の頬を撫で続ける。
親指で私の涙をすくいながら、そっと。
「でも、その『もしも』は、ずっと先に迎えたい。長い年月を一緒に過ごして、お互いが精いっぱい生きた後に迎えよう。時雨となら、きっと出来る」
私となら出来る、と。
そう言ってくれた。
私も、そう願っている。
そう、したいよ。