だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版

宝物...タカラモノ






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湊がいなくなる前日の話をしたのは、これが初めてだった。

圭都は私の話を黙って聴いていた。

さっき作ったコーヒーと紅茶はすっかり空になってしまった。

部屋の中は静かな空気が流れている。




「おかわり、作る?」




現実に引き戻すようにそっと圭都に問いかける。

曖昧に返事をする圭都を、不思議に思って覗き込む。

圭都は意思の強い目でガラスの棚を見つめていた。


幸せそうに笑う湊の顔を。




「圭都?」


「・・・あぁ。コーヒーがいいな」


「わかった。待ってて」




間の抜けた声が目線と一緒に私に向けられた。

圭都のカップと自分のカップを持って、キッチンへと立ち上がる。


カウンターの上にある電気ポットに手をかける。

スイッチを入れようとして、その手を止めた。


湊の話をしていたら薬缶を使いたくなってしまった。

コンロの下の扉を開けて銀色の薬缶を取り出す。

火にかけられた薬缶は、しゃかしゃかと水が動く音がした。




「薬缶?珍しいな。電気ポットもあるのに」


「たまにはいいでしょ?こっちの方が美味しいんだから」




そう言って笑うと圭都は目を細めて私を見ていた。

その視線に気が付いて、私は圭都のほうへ顔を向けた。




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