だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「何?そんなに見られると気になるんだけど」
「いや、なんかわかる気がするんだよ。湊がどんな風に生活してたのか」
圭都は不意にそんなことを言った。
私は少し動揺したけれど、それは嬉しいことだと理解して笑った。
手元に用意したドリッパーをカップにセットしながら。
「でも、やっぱり悔しい気はするな」
「え?」
「ここで、こうやって。十六年、一緒にいたんだろう?兄貴とは言えど、狡いよな」
そう言ってキッチンの方へ入ってくる。
圭都の言葉は私をからかうように言った言葉ではなかった。
その声は、家に語りかけている、そんな感じだった。
「初めて・・・聴いた」
「何を?」
圭都がそっと私に近付く。
コンロの上で薬缶からシューシューと湯気が出てきていた。
圭都はそれに気付いて、私をすり抜けてコンロの火を止める。
目だけでそっと合図をくれたので、私はその薬缶を持ってコーヒーを淹れる。
自分用の紅茶のポットにしっかりとお湯を注いでから。
こぽこぽと湯気が立ち上る。
圭都が湯気でぼやけてしまいそうだった。