だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「湊のこと。『兄貴』なんて呼んだことなかったから」
ティーコゼーを紅茶にかけて圭都用のコーヒーをドリップする。
コーヒーの匂いが立ち込めるキッチンの中で、圭都が納得したように声を出した。
「あぁ、ほとんど呼んだことないな。湊がふざけて罰ゲームにしてたくらいだ。照れくさかったからな」
そんなことを言う圭都は、懐かしそうに笑った。
圭都にとっても湊との想い出が大切にされているのだ、と。
実感できるこの空気が、今は何より嬉しかった。
ドリップしたコーヒーを手渡して、自分の紅茶もカップに注ぐ。
本当は綺麗なティーカップは山ほどあるけれど、マグカップの方がしっくりくる気がしていた。
リビングに足は向かわず、私達はカウンターのすぐ傍にあるダイニングテーブルで向かいあった。
温かい飲み物は気持ちを落ち着けてくれるのに最適だ。
湊のことに対して悔しがる圭都は、いつもよりも幼く見える。
私はそんな圭都の顔を見て安心感が広がっていった。
ゆっくりと紅茶を啜る。
ここは私の実家で、圭都の家ではないのに。
いつも此処にいたように圭都が座っている。
それが、とても不思議な感じがしていた。