だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「実は、来るまでは不安だった」
ぼそりと、圭都は言った。
手に持つコーヒーからは、まだわずかに湯気が立ち上っていた。
「でも、いざこの家に来てみたら違った。優しい気配がするんだ。当たり前だよな。俺が好きになった二人が育った場所なんだよな」
一度ガラスの棚に目を向けて、振り返る様にゆっくりと私に向き直った。
少しの間、見つめ合っていると私の方が恥ずかしくなってしまった。
目線をそらすことも出来ず、私は緊張して瞳を揺らしていた。
「来てよかった」
圭都が心から言ってくれているのが、今度はしっかりとわかった。
その声を聴いて、私はゆっくりと目を伏せた。
圭都の放つ気配は、湊の放つ気配とそっくりだ。
でも、聴こえる声が。
私を見つめる目が。
あどけなく笑うその顔が。
やっぱりどこか違うことを、しっかりと理解していた。
この人が湊ではないと理解した私は。
想い出す湊のことを、何か大切な箱にしまうように胸の奥に仕舞い込んだ。
それはいつでも鍵を開けられる、私だけの大切な記憶。
忘れることなど無いように、大切に閉じ込めたいと想った。