だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
ゆっくり扉を開ける。
そこには八年前のままの部屋があった。
部屋には湊の気配がして、湊がいるような気がしてしまった。
机の上には当時最新式だった古ぼけたパソコン。
隣の本棚には沢山の資料とマンガ。
クローゼットの扉のほこりも、机の上のほこりも。
綺麗にされているのはママのおかげなのだろう。
正面には南向きの大きな窓がある。
それに平行に並べられたベッド。
壁にくっつけた方がいいよ、と何度も言っていたのに。
『寝ながら窓の外が見たいからという』なんとも湊らしい理由で、部屋の壁には接していない位置にある。
物が少なくて、本当に必要なものしかない湊の部屋。
八畳の部屋の中にあるのは、ベッド、机、本棚、プラスチックの衣装ケースだけだ。
目の前の出窓には、湊のものらしからぬキャンドルが置いてある。
私は他の場所には目もくれず、そのキャンドルへと手を伸ばした。
色とりどりのキャンドル。
最近使ったような溶け方をしている。
「それは?」
圭都がそっと近付いてくる。
そういえば、私はこの部屋のドアを開けてから一言も喋っていなかったな、と今更気付いた。