だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「時雨」
そっと私の隣に腰掛けて圭都は私の名前を呼んだ。
ぼんやり窓を眺めていた私は、圭都のその気配にそっと振り向いた。
「此処にいると、湊を想い出す?」
圭都は私の顔をしっかり覗き込んでゆっくりと言った。
その表情は不安そうなものなどではなく、どこか優しげな表情に見えた。
私はじっとその目を見つめた。
そして、小さく首を横に振った。
「あまり想い出さないかも」
「そう、なのか?」
圭都はとても不思議そうに私に聞いた。
そっと目線を窓に外す。
それにあわせて、圭都も窓を向く気配がした。
「此処は、湊の気配がするから。想い出すよりもそれを感じてることのほうが多いのかも。想い出すことよりも、感じていたい。此処に、まだ確かにいる湊の気配を。」
想い出すのは、遠く離れているからだと想う。
近くにいるのに想い出すことはない。
想い出は大切だけれど。
想い出は悲しい。
もう触れられないものを、追いかけるのは苦しい。
あの幸せな気持ちは、此処ではないトコロで生まれたものだと。
気付かされてしまうから。