だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「じゃあ、俺のことも想い出したりはしないのか?」
私の左手にぎこちなく圭都の右手が触れる。
左側には『本当の自分』が現れる。
それを見せることに抵抗がないということを、この人に伝えれば。
少しでも圭都に安心をあげられるのかな、と思う。
「しないよ」
そっと圭都を見つめて言う。
長い睫毛がかすかに揺れているのを見て、私は少しだけ目を細めた。
「だって、ずっと傍にいてくれるもの。想い出すのは、夢の中にいる時だけだよ」
傍にいる時は、圭都を感じる。
眠る時は、圭都を想い出す。
それが今の私と圭都の距離だ。
言葉に含んだ意味を理解していないのか、圭都はまだ真面目な顔をしていた。
握られている手を私がしっかりと握り返す。
そこには、いつものように冷たい圭都の手があった。
「傍にいるなら、想い出す必要はないよ。こうして触れて感じることの方が、大切だもの」
傍にいたい、と。
そう真っ直ぐ言ってあげられれば良かったのだけれど。
生憎そう簡単に素直になれるはずもなかった。
回りくどい言い方の言葉を、圭都はゆっくり頭の中で理解したようだった。
安心感に満ちた柔い表情。
圭都の、その顔が見たかった。
そんな風に想いながら、私は圭都の手を引いて立ち上がった。