だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「ごめんっ!違うの!あの・・・この鍵、湊が・・・。えと――――」
「時雨、落ち着け」
気が付くと圭都は私の前に跪いていた。
そして、そっと両手を握ってくれる。
いつもの冷たい体温が私を現実に連れ戻してくれた。
大丈夫。
この人は、こんなことで取り乱すほど弱い人じゃない。
「私が中学に入ったばかりの頃、湊と買い物に行ったの。その時、この鍵のついた箱を買ってた」
「じゃあ、これは湊の?」
「うん。その頃はまだ値段の感覚がわからなかったけど、とても高価なものだった気がする。鍵のついた、シンプルな箱。お母さんの箱に良く似た、飾り箱」
綺麗な箱だった。
お母さんのものよりもずっと新しくて、それでもアンティーク感の漂う箱だった。
「湊は、その箱を持ってた。私と『お揃いだね』と言って笑ってた」
どうして今まで想い出さなかったのだろう。
この鍵を見るまで、これが何の鍵なのかさえ分からなかった。
けれど想い出した今、湊のあの箱の中身が鮮明に浮かんでくる。
中に詰まっているのは二人の想い出。
いつか想い出して二人で眺められるように、と。