だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
湊と同じ、線の細い背中。
幾度となく追いかけた湊の背中。
それによく似た圭都の背中は、今。
私を奮い立たせるかのように、私の前に立っている。
「俺が湊なら。八年前の気配なんかじゃなくて、時雨に残した何かを探して欲しいと想う」
『俺が湊なら』。
圭都にそんなことを言わせたい訳じゃなかったのに、結局この人はいつも先回りをしてくれる。
私が苦しくならないように、と。
考え方も存在も。
誰よりも湊に近い圭都が、湊の考えていたことを簡単に見抜いてしまう。
本当に其処に存在しているかのように。
圭都の言葉は、湊がくれる言葉のようだった。
そんな言葉に私が逆らえる訳もなかった。
分かってる。
私が湊でも同じことを想うと想うから。
八年前の気配なんかより、伝えたいと想った何かを探して欲しい。
でも、縋りたいの。
湊の気配に。
其処にいた面影に。
何一つ変わらない部屋に、もしかしたら湊が帰ってくるんじゃないかって。
そう想える場所にしておきたかったの。
向き合ったはずなのに。
やっぱり受け入れられていなかったのだと実感する。
この家には、湊の面影がありすぎる。