だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「ごめんなさい」
圭都の背中にしがみついて言葉を落とす。
何も言わず、圭都に回した手に冷たい感覚が重ねられる。
いつにも増して、圭都の手は冷たかった。
「湊が残してくれたものに向き合いたい。そして、ちゃんと受け止めたいの。湊も・・・圭都も」
言葉を放つのと同時に、圭都を抱き締める腕に力を込める。
圭都は優しくその腕を撫でてくれる。
いとしそうに。
ゆっくりと。
「傍にいる」
そっと放たれた言葉。
それだけで十分だった。
余計なことを何も言わない圭都の言葉は、真っ直ぐ私に届いていた。
此処にいてくれるだけで、それだけで私は頑張れる。
「探しに、行こう」
そっと圭都の身体を離して、圭都を追い越して湊の部屋の前に立つ。
銀色のドアノブが鉛のように重かったけれど、それを握る手に圭都の手が重なったので軽くなった気がした。
ふと振り返ると、圭都は意地の悪い顔をして触れるだけのキスをした。
にやりと笑ったその顔に、張り詰めている自分がバカらしくなって笑った。
圭都らしいやり方に『ありがとう』と想った。