だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「この箱を開けるのが、怖い。この箱はきっと『パンドラの箱』だよ。悲しいことばかりが詰まっている気がして――――」
「時雨」
真っ直ぐ響く声。
この人は、いつもそう。
正面から私を傷つけて。
正面から自分も傷付いて。
そして、正面から受け止めてくれる。
その目が好き。
意志の強い、優しい。
色素の薄い。
長い睫毛の中にある目が。
「『パンドラの箱』の話を知ってるか?」
「うん。この世の災厄を詰め込んだ箱だって、知ってる」
「そうだ。悪意や災い。苦しみや悲しみの詰まった箱。でも、この世の災厄が詰まった箱の中には、最後に一つだけ残るものがある。知ってるか?」
「・・・うん」
「じゃあ、大丈夫だ。開けよう。傍にいるよ」
そうね。
パンドラの箱に残ったもの。
この世の災いが全て詰まったその箱の、奥底に残っていたもの。
それは、『希望』。
「残ってるかな。・・・私にも、希望が」
「残ってるさ。だって湊は、それをお前に残したかったんじゃないのか?」
もしそうならば。
私が受け取らないで、誰がそれを受け取れるだろう。
私は鍵を差し込んだ。
赤いガラス玉が、きらりと光って鍵が回った。