だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版





「時雨、そろそろ行くよ」


「うん、わかった」




二人分の荷物を一つの鞄に詰めた。

一緒の鞄に全部の荷物が入っていることが嬉しい。

その鞄を、すっと湊が持ち上げる。




「気をつけて行ってらっしゃい」


「ありがと、ママ。ママたちもゆっくり過ごしてね」




お父さんと並んで玄関で見送ってくれる。

家族で過ごさない年越しは生まれて初めてだった。




「ゆっくりしておいで」




お父さんの声に小さく頷いて家のドアを出る。

目の前の湊の背中を追いかけて、一緒に車に乗り込んだ。




大晦日の道路は少し混んでいたけれど、街中を抜けると車は随分減ったように感じた。

連泊ではなく一泊だけの旅行なのに、私はとても嬉しくてずっと笑っていた。

その顔を時折覗く湊が同じように嬉しそうなのを見て、二人で笑い合ったりしていた。



ホテルまでは二時間半程度。

車の中で、二人ともほとんど話をしなかった。


ただ、同じ空間にいることを感じているだけでよかった。



私が口ずさむ歌に湊が目線をくれることが、とても幸せだった。




< 30 / 358 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop