だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「時雨、そろそろ行くよ」
「うん、わかった」
二人分の荷物を一つの鞄に詰めた。
一緒の鞄に全部の荷物が入っていることが嬉しい。
その鞄を、すっと湊が持ち上げる。
「気をつけて行ってらっしゃい」
「ありがと、ママ。ママたちもゆっくり過ごしてね」
お父さんと並んで玄関で見送ってくれる。
家族で過ごさない年越しは生まれて初めてだった。
「ゆっくりしておいで」
お父さんの声に小さく頷いて家のドアを出る。
目の前の湊の背中を追いかけて、一緒に車に乗り込んだ。
大晦日の道路は少し混んでいたけれど、街中を抜けると車は随分減ったように感じた。
連泊ではなく一泊だけの旅行なのに、私はとても嬉しくてずっと笑っていた。
その顔を時折覗く湊が同じように嬉しそうなのを見て、二人で笑い合ったりしていた。
ホテルまでは二時間半程度。
車の中で、二人ともほとんど話をしなかった。
ただ、同じ空間にいることを感じているだけでよかった。
私が口ずさむ歌に湊が目線をくれることが、とても幸せだった。