だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
私は湊以外の恋人をお父さんに会わせたことはないので、信じられないくらい緊張していた。
私の体が強張ったのがわかったのか、ママは静かに目線をずらしていった。
「時雨、そちらは?」
静かな声が部屋に響く。
小さなボリュームでかかる音楽は、お父さんの声に負けそうだった。
「あ、こちらは――――」
「櫻井圭都と申します。時雨さんとお付き合いをさせていただいてます。先日、一緒に住むことを決めましたので、ご挨拶に伺いました」
言い淀むことなく圭都は綺麗な声で言った。
誠実なその態度が、私の胸を熱くした。
「あら、時雨ちゃん。そんな素敵な人まで連れてきてくれたの?ほら、潤さんもそんな顔しないで。いい匂いもしてるし、まずはみんなで食事で――――」
その後の言葉は続かなかった。
ママは私の身体を離してお父さんの腕にしがみついていた。
その腕に力が入るのを見て、お父さんが心配したようにママを見つめる。
圭都はママから向けられた視線に真っ直ぐに向き合っている。
そんな圭都を見て、私は思わず圭都の隣に立った。
そっと、手を添えて。